オイルセラピーのために在るかのような
オイルを皮膚に塗布する療法が、いまほど日本に定着していることは、歴史をさかのぼってみても、例を見ないかもしれません。
オイルセラピーに使用できる植物油は多数ありますが、ホホバオイルほど滑りがよく、肌になじみ、酸化しにくいことからオイル臭が少なく、オイルセラピーのために存在するかのような植物油もめずらしいです。
そんなホホバオイルの特性は、ロウ成分を含んでいること。
正式にはワックスエステルといい、深海魚やクジラに多く含まれるオイルです。
海の生物たちにとっては浮力調節とエネルギー貯蔵を兼ねているといわれています。
ワックスエステルは人の皮脂腺でつくられる脂質の主要成分なので、肌になじみが良いのは、もともと人のつくりだす油分と似たような組成だから、というわけです。
オイルセラピーは皮膚から吸収されるオイルの効能はもちろんですが、ひとの手がふれる、タッチする、という側面での効果も大きいと思います。
オイルマッサージを受けるといつも思うのですが、皮膚に手のひらがあたるときに交換する情報量には、すさまじいものがあると感じています。
それは誰かのつくった料理を食べるとき、
誰かの描いた絵をみるとき、
誰かの綴った本を読むとき、
そして誰かの奏でた音楽を聴いたりするときと同じです。
もちろん会話したり、動画をみたりするときも、生命エネルギーと言えばよいのか…互いの見えないなにかを確実に受け取り、内面に変化を与えあっている、と感じています。
境界線もたいせつ
肌と肌が触れ合うとき、植物オイルが仲介者としてあいだに入ると、情報交換の緩衝剤となって、互いの境界線を守ってくれるような気がします。
仕事とはいえ、セラピストの方々も人間ですから、調子のよい日悪い日、機嫌のよい日悪い日は必ずあり、ホルモンバランスとか花粉とか、バイオリズムとかアレルギーとかウイルス騒動とか、意識だけではどうにも出来ないことだって起こります。
それでもプロの方々は、呼吸法やら瞑想やらヨガなどを駆使して、その日の万全を尽くせるよう工夫されていると思いますが、皮膚と皮膚の間を滑るオイルがあることで、エネルギー交流はゆるやかな曲線を描いて、互いを突きさすことなく、必要以上の侵入をしない、させないセッションが生み出されるような気がしています。
海を潜在意識に例えるなら、深海に棲む生物たちがワックスエステルを浮力調節に使っているように、ホホバオイルを媒介にすると、受け手も送り手も、浅すぎず深すぎず、ほどよい深さまで潜在意識に入りこみ、ほどよくリラックスを得られるのではないかと思います。
あくまで個人的な感想ですが、ホホバオイルはそうした特別な力を宿しており、ひとを生命の深い場所へ導いてくれる、そんな気がしています。
乾燥に強く腐りにくい
ホホバの原産地ではリスやウサギ、大型の鳥類がその実を食べるとされていますが、人にとっては難消化性植物に分類されます。
腐りにくい、酸化しにくいということは、つまり消化しにくい、というわけです。
アメリカ、メキシコ原産でネイティブ・アメリカンの人々が古くから使用してきた文献はいくつも残っており、肌や髪の乾燥ケア、ロウソクの材料、皮革製品の保護、さらには炒ると、コーヒーに似た味の飲料が得られるそうで、アメリカではホホバのことをコーヒーノキと呼ぶ風習も残っています。
そもそもホホバの原産地を思うと、日差しが強い乾燥地帯で夜はたいへんに冷え込む砂漠が広がっています。
砂漠に自生するホホバは、日中と夜間、寒暖差の激しい環境で生き残るために、ロウ成分という代謝産物をつくりだしたと考えるのが自然です。
地中30メートルまで根を伸ばし、微量な湿分を吸収するので1年以上干ばつに耐えることができます。
多くの植物がそうであるように、ホホバも親植物の情報をぎゅっと凝集し、すべてを「種子」に託しています。
オイルはその情報を守り、育むためのクッションのようなもの。
ホホバオイルには酸化を防ぐビタミンEはもちろんのこと、ビタミンA、D、エイコセン酸、オレイン酸、カロチノイドなどが含まれています。
禿地を緑に
現代ではオーストラリアでの栽培も増え、綿花栽培からホホバ栽培へと移行する農家さんが増加しています。
砂漠化を食い止める緑化計画に、ホホバだったらうまく順応できるのではないかしらと、素人発想ながら砂漠で自生する植物が地球上に存在していることに、勝手に勇気づけられたりもしています。
水と緑あふれる土地から砂漠へと、悠久の変化に身をゆだね、ゆっくりと砂漠化に順応していった植物というのは、根の発達と強さに特徴があり、水は天から降り注ぐものという固定概念を刷新してくれます。
表面上は乾燥しているかのように見えても、地球は水の惑星で、地中深く根を伸ばせば、そこには悠々閑々と流れる水脈による、湿潤なる土塊がある。
ホホバは地球システムを深く理解し、工夫して生き残ってきた、植物界の特別な使徒のような気もします。
すでにオイル産業界になくてはならない存在にまで上りつめたホホバは、環境問題に喘ぐ人類の希望のひとつでもあります。
ホホバあるところに産業が興り、生活が営まれ、人はその土地で生きてゆくことができるのです。
循環システムをとりもどす
少々大雑把な比喩かもしれませんが、地球に生きる人類を、惑星地球のフラクタルな存在と考えるなら、人の皮膚と地球の地表は同じような循環システムを有しているのかもしれません。
植物オイルは塗布することで、総じて人の皮膚を保護し、柔らかくしてくれます。
皮膚の硬さは毛穴を詰まらせるので、皮脂腺でつくられる油分を閉じ込め、炎症やニキビの原因にもなります。
皮膚を柔らかくするエモリエント作用によって、毛穴の蓋は開き、ほんらいあるべきターンオーバー、お肌の健全な循環システムがとりもどされます。
ビタミン類が入っているとか、オレイン酸が細胞膜を保護するとか、リノール酸がどうしたとか、植物オイルの研究は日進月歩で進み、毎年いろいろな説が発表されますが、つきつめて考えると、植物オイルの有用性は、28日ごとに生まれ変わる表皮の循環システムをとりもどすこと、それに尽きるような気もします。
地中深く流れる水脈に根をつなぎ、禿地に循環システムを取りもどすホホバは、人の皮膚で、地球の地表で、同じように流れを創り出し、循環を維持し、サスティナブルにはたらきつづけてきた、地球生命種にとっての先達といえるでしょう。
*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。
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