橙は代々続く
オレンジの象徴は無垢と多産、かんきつ類はその土地に根差した様々な種類が存在します。 ダイダイ、アマダイダイ、イヨカン、温州ミカン、八朔、夏みかん、ゆず、カボス、すだち、ヒュウガ、ポンカン、ライム、レモン、グレープフルーツ、マンダリン、シークワーサー、文旦と、数え上げればきりがありませんが、気候風土に合わせたさまざまな柑橘類があり、多産の象徴そのものという感じがします。
精油になるオレンジの香りは主に3つで、果皮の香-オレンジ油、ビターオレンジの花の香-ネロリ油、木の小枝/葉/小さい実やつぼみなどの香-プチグレン油があります。
日本ではスウィートオレンジのことをアマダイダイと呼び、橙色(ダイダイイロ)だからダイダイなんだろう、と思っていたのですが、以前ミカン農家さんに尋ねたところダイダイの木は実がしっかり枝について落ちにくく、新旧の実が一緒に実ることから代々と呼ばれるようになったと聞いたことがあります。
家系代々続くようにと縁起物にもなり、お正月の鏡餅の上に鎮座するのだとか。
原産はインド、アジア地方とされており、今では世界中で、冬至からクリスマス、お正月の風物詩に、オレンジは欠かせないものとなりました。
気楽さと親密さ
お正月にはおこたでみかん。
こころもからだもほっこりして、気楽にのんびり、心のバリアーがゆるんでいくような果実です。
オレンジ精油は実際リラックスとリフレッシュをもたらす香りなので、柑橘系の爽やかさと同時に、小春日和の太陽で日光浴しているような温かい気分を醸し出してくれます。
またオレンジ果皮の精油に含まれる成分には消毒作用もあることから、ヨーロッパではクリスマスの時期にオレンジポマンダーを作ってドアや窓に飾る風習があります。
ポマンダーはオレンジにクローブ(丁子)を刺してシナモンなどのスパイスを振りかける香りのよい魔除け飾りです。
異界とのつなぎ役?
日本では縁起物とされ、明るさや親密さ、気楽さを心にもたらす香りと定義されるオレンジですが、西洋ではオレンジは、恐怖を生み出す色ともいわれています。
確かにハロウィンはオレンジと黒がテーマカラーですし、神話に登場する「黄金の林檎」はオレンジのこと、という説も伝承されています。
ギリシャ神話で有名なトロイア戦争の「黄金の林檎」は、大きな戦争に発展する火種として描かれています。
たぶん東洋と西洋では、異界との接点に対する姿勢が大きく違っていることが、ひとつの理由ではないかと思います。
西洋の建物は固く頑丈で、昔の日本の家は木造で簡素なので、もともと民族的に自我のあり方に大きな違いがあって、異なるものは徹底的に排除する、エビデンス主義の西洋は、基本一神教、神様は完ぺきな人型で、動物を崇めるなんておぞましくて想像もできない。
というのに対して日本では、稲荷信仰をはじめとして動物が神様になったり眷属になったり、有機・無機問わずあらゆるものに神様が宿っているアニミズム的信心をもっています。(キツネもオレンジといえばオレンジ色の動物ですね)
そう考えると、異界の出入口になっているかもしれないオレンジ色の果実を、日常にするっと受入れ、縁起物として餅のてっぺんに鎮座させる日本と、オレンジにクローブをまんべんなく差し込んで、オレンジ色を封鎖するポマンダーには、何か心理的に大きな違いがあるのかもしれないと感じます。
神の国、精霊の国
アジア圏で異界出入口ウエルカム、共存するのがふつう、という心理を垣間見た国をひとつ思い出しました。 バリ島を旅した時に、毎朝夕決まった時間に悪霊へのお供えをもって、あちこちの道端や橋、辻、寺院、建物に納めている人をたくさん見かけました。
悪霊をまいにち気にかけてあげて、嫉妬させないようにしている、という説明を聞いて、なんともほほえましい気分になったものです。
大きな葉に可愛らしく盛られた、米や豆、果物、お花、そして線香(インセンス)。
各家庭ごとに色々なバージョンがあって、街中にいつも、ほのかに甘くて幻想的な香りが漂っていました。 神の国、精霊の国と呼ばれる所以が、するっと腑に落ちた瞬間でした。
*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。
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