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グレープフルーツ

ファースト・インプレッション


アロマテラピーを学びはじめたころ、面白くて毎日のように取り組んでいたのは香りにあらためて「出会う」ことです。


いつの間にか近くにいて、そばにいるのがあたりまえになっている香りは、なかなかその香りの本領を、きちんと受け取ることができません。


感覚や身体、感情に、どれほどの恩寵があったとしても、気がつかないことが多いです。

楽園的芳香空間を創り出すグレープフルーツ

グレープフルーツの香りは、オレンジやレモンと並んで知らない人はいないというほど生活に入り込んでいますから、柑橘類の香りならどれも一緒だろう、と思う方にこそ、ぜひ一度香りのファースト・インプレッションで、印象や気配の違いを確認されてみるのも面白いかと思います。


香りのファーストインプレッション

1.まずは心を鎮めて、深呼吸

2.香りを手にとって目を瞑り、ゆっくり鼻から吸い込む

3.その時に感じる心やからだの変調を、意識的に静観

4.まっ白な紙とペンを用意して、思い浮かんだイメージ、色、記憶、人物像(知っている人でも架空の人でも)を書き出してみる

5.思いつくままに、ジャッジせず、解説もせず、なぜこんなこと思ったのか?と自問せず、なんでも感じたことを書いてみる


香りの印象は十人十色、自分とその香りが、どのような創造を生み出すのか、ひとつづつ確かめていくと、精油とのつきあい方に面白さや豊かさがプラスされて、香りを選ぶのがますます楽しくなること請け合いです。



Happy Go Lucky


初めてグレープフルーツの香りに「出会った」ときすぐに浮かんできたのはマービン・ゲイの歌声。 甘さのなかに少し混じっている苦み。 柑橘特有の爽やかさのなかに、一筋縄ではいかない複雑なナニモノカが訴えかけてくる印象でした。


ベトナム戦争・貧困などの社会問題をとりあげた歌詞で、苦悩を赤裸々に表現しているわりには、讃歌のような柔らかいメロディで一世を風靡したWhat's Going onや、Mercy Mercy Meの方が、当時はよく聴いていたものですが、なぜか浮かんでくるのは Happy Go Lucky の明るい、けれど切ない歌声。

「爽やか、謎めいてる、多層的、いろいろ複雑な感じ、なのに楽観的、ふしぎ、ハッピーゴーラッキー」 当時のノートにはそんな走り書きが残っていました。



楽園に暗い話はつきもの


グレープフルーツの出自は謎に包まれており、亜熱帯地方原産、熱帯アジア原産、カリブ海バルバドス島原産等々の候補があり、オレンジの雑種、オレンジスウィートとポメロの自然交配種、オレンジとシャドックフルーツの交配種など、記録は様々です。


シャドックフルーツは文旦のことらしいのですが、記録にはあまり残されていない人物、謎の船長シャードックが西インド諸島に種を持ち込み栽培が始まったことから呼称されているご当地名です。 18世紀にカリブ海をうろつくイギリス人の船長とはいったい...? そしてなぜ文旦の種を持っていたのでしょう? ともあれ、ある時突然、楽園と呼ぶにふさわしい気候風土の南方エリアに現れ、この社会にいつの間にか参入していた、元を特定できない果実というわけです。 キャプテン・シャードックがグレープフルーツの元種を持ち込んだとされるバルバドス島は、サンゴ礁でできている小さな島国なので、まさに楽園のような気候風土かと思います。1500年ころ、先住民はすべてスペイン人によって別の島に、奴隷として連れ去られました。 そのせいで一時期無人島化していたという記録も残っています。 イギリス、オランダ、スペイン入り乱れての統治の歴史、最後にはアフリカから多くの労働者が連れてこられ、サトウキビ農園での強制労働がはじまります。


楽園とみれば独占したがる強者どもは、いつも歴史に暗い影を落としますが、楽園生まれ、楽園育ちの植物は、秘すれば花の如く清濁あわせ呑み、人類のドタバタ劇を見守っている印象があります。 グレープフルーツの精油が商業的に生産されたのは1930年ころのフロリダです。 食品、化粧品、香水の成分として幅広く使用されてきました。 果物のなかではレモンよりビタミンCの含有量が多いことはあまり知られていません。 学名はCitrus paradisi(シトラス パラディシ)、楽園・パラダイスの名をもつ果物です。



ストレス食いを慰める


潜在化した傷つきやすい自分をインナーチャイルドと呼び、古傷を根本的に癒すセラピーが一時期はやりました。 批判や屈辱の種類というのは様々あり、どういう状況で傷つくかも十人十色、それは幼少期体験に根差しているともいわれます。

大人になればストレス発散法はいくらか選択肢ありますが、子供のころは食べ物一択になる傾向が強いので、幼少期の傷=食べることで自分を慰めた、つまりある種のストレスは食べ物で慰めようという無意識行動に直結し、パブロフ犬状態にはまっている可能性は、誰のなかにもあることかもしれません。

以前香りのファースト・インプレッションが、インナーチャイルドを発見する手掛かりになったという人のお話を聞いたことがあります。 食べている最中は無意識行動ゆえに気がつかないけれど、いつも食べ終わってから、しまったーと罪悪感にかられていました。

香りのファースト・インプレッションをはじめるようになって、自分のしている行動や、話していること、感じていることを、同時進行で見守るもう一人の自分をイメージできるようになり、ある日ストレス食いしているまっさい中に、自分見守り視点のスイッチを入れよう、と意識的になれたそうです。 すると、過去の忘れていた記憶が鮮烈によみがえり、「えっ?そんなことで自分は傷ついていたの?」と、一人で泣き笑いしてしまったというのです。



時を駆けるグレープフルーツ


グレープフルーツの香りは長期にわたる自己批判や自己否定、罪悪感などで重くなった心の熱を明確にすることで浄化し、爽快にする特性があるといわれています。

心の傷やトラウマと呼ばれるものは、時間に対する認識を少し拡大するだけで、勝手に癒されてしまうことが多いです。

例えば5歳の時に、おもちゃの争奪戦に負けて、両親が味方してくれなかった記憶も、その場その時、その当人にとっては大惨事です。たった5年の時間意識では、経験値があまりにも少なすぎて、体験を統括したり、俯瞰して見ることはできません。けれど、ぎゃん泣きした5歳の自分は50年、60年のスパンから見ると、甘酸っぱくてなつかしい、思い出に変わります。


人生80年~100年といわれる現代人がカウントしているのは肉体の寿命ですが、魂や、意識体といわれるものを認識できるようになったら、寿命という概念をどのようにとらえるようになるのでしょう。


いつか、未来の地球において、わたしたちは意識体を、肉体のようにコントロールできるようになるのでしょうか。 たとえば7回転生した、7人分の人生を統括、俯瞰して見ることができるようになったら、「一生」というとらえ方もずいぶん変わるだろうことは、容易に想像できます。

もしもそんなことができるようになったら、一方向にしか動かせないと思っている、過去から未来への時間軸をほいほい飛び越え、行ったり来たりして、現代地球史の暗い影を、やさしく見守り、癒すことができるのかもしれません。

楽園のなかで、想像を絶する地獄絵図を見守ってきたグレープフルーツ。 鷹揚で、天真爛漫な心をとりもどす、爽快な香りをふりまきながらも、人類の暗い一面を知りつくしている果物。


出自が謎で、いつの間にか人間社会におりました、というプレゼンスしかり、実は時をかける果物として、凝ったエネルギーを癒すために、必要な時代にぱっと登場して、暗い熱を冷ます役割を担っているのかしら、なんて想像してしまいます。



グレープフルーツの香りには、どんな感情の熱も発散してしまう懐の深さと、おおらかさを感じます。

それは清濁併せもつ、甘さのなかに見え隠れする、苦さ、複雑なナニモノカがあるからなんだろうと。

成分だけでいうなら、ヌートカトンが入っているから、となるでしょうし、ヌートカトンは交感神経を優位にして、食欲を抑え、脂肪燃焼作用も働かせる。と、通りいっぺんの発想でかたをつける事もできます。 だからストレスで食べたい衝動を止められないときには、食べるまえにグレープフルーツの香りを嗅ぐのがおすすめです、とも。

ストレス回避のために身体は脂肪を味方にして、クッションのように保護してくれると考えるなら、クッションのなかに溜め込まれた凝った熱を発散する力が、数ある柑橘類のなかでもグレープフルーツだけが持つ特殊技です。

長い長い時間のなかでは、どんなに暗い熱も霧散霧消することを知っているからこそできる技、グレープフルーツの業のようにも思えます。




*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。


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