夏至から十と一日目
山形県のベニバナ祭り、ご存じの方も多いと思います。
サフラワー、和名ベニバナ(紅花)の国内最大産地・山形で、毎年7月、花が一斉に開花するころ開催されるお祭りです。
「半夏生ひとつ咲き」はベニバナの開花を知らせる季節の言葉。
夏至から数えて11日目にベニバナは開花をはじめます。
梅雨が明けて、本格的な夏の到来を知らしめるハーブのひとつです。
サフラワーの原産地はエチオピア説が有力で、ナイル川流域で栽培が盛んだったそうです。地中海からエジプトを経由し、日本にはシルクロードを渡って5,6世紀に渡来したといわれています。
古くから紅色、黄色の染料として使用され、平安時代に栽培が盛んになり、口紅などに使用されてきました。
平安時代には末摘花(すえつむはな)と呼ばれ、ベニバナを摘むとき茎の先端についた花を摘むことから呼称されたそうです。
源氏物語に登場するシコメ役の末摘花は、鼻が赤いという理由で命名されていますが、ベニバナは「くれなゐ」とも呼ばれ、若く美しい女性を象徴する花でもありました。
貴重な紅(べに)の色
学名はCarthamus tinctorius
アラビア語、ラテン語由来で「染める」を意味することばです。
高さ1mほどに成長し、6月後半に開花を初めて7月に見ごろとなります。
咲きはじめは鮮やかな黄色ですが、だんだんオレンジから、赤味を帯びていきます。
ベニバナに含まれる色素のうち、黄色色素は水に溶けやすく、赤色色素は水に溶けにくいので、水に何度もさらしては、赤と黄色の色素を分離し、最終的にのこった赤色色素の花弁にクエン酸の酸性液体などを少量混ぜて、さらに紅色発色をよくするのだそうです。
時代劇などで貝殻や陶器の小物入れにおさめられた紅(べに)、つまり当時の口紅を目にすることはよくありますが、ベニバナに含まれる赤色色素はとても少量なので、じっさいにはかなり高価なものだったと思います。
小町紅と呼ばれる、江戸時代のトップブランド口紅があったそうですが、もちろん一般庶民が購入できるようなものではありませんでした。
御殿におつとめする女中さんとか、豪商家系の女性とか、花柳界の遊女たちとか、いわゆる粋筋の人々御用達の紅(べに)だったそうです。
良質な紅(べに)は、容器の内側に紅を塗って自然乾燥させると、紅色ではなく赤の反対色である笹色(玉虫色)の輝きを放ったといわれ、それが目利きに使われる方法だったといわれています。
黄金と同じくらい価値のある紅(べに)
いまではサフラワー・ベニバナは、一般的なハーブとして広く普及していますが、平安時代には朝廷への貢ぎ物であったり、6世紀頃の古墳から花粉が出土されていたり、当時は黄金と同じくらい貴重なものでした。
BC2500年頃の古代エジプト遺跡から発見された麻のリボンの黄、または淡紅色の布は、ベニバナで染められたものとして確認されています。
2700年以上前のサッカラ遺跡からも、ベニバナの花弁と、紅色色素が出土しており、天然の染料として、また着色のための化粧料として、長い歴史があることを物語っています。
現在の主な生産国はインド、米国、メキシコ、アルゼンチンなどで、栽培の多くは紅花油(サフラワー種子油)の採取を目的としています。
日本におけるベニバナの栽培は、太平の世の江戸時代に急速に発展し、最上地方(山形県)で栽培されたものの発色が良いと評価されたことから「最上紅花」として有名になりました。
明治以降、価格競争で輸入品にかなわなかったことや、合成染料の台頭により、栽培面積は減少していきました。
花も種子も、使いどころ満載です
サフラワーのドライハーブティは鮮やかな黄色で、血行促進によいとされています。
お味はあっさり系なので、ブレンド相手を選びません。
スープに入れて、色味を楽しむこともできます。
世界一幸せな国で有名になったブータンで、広く愛飲されているお茶、ツェリンマ茶にもベニバナの花弁が使用されています。
漢方では紅花(コウカ)といって、血行促進、うっ血を取り除くときに処方されます。
キク科植物なので、アレルギーのある人には注意が必要ですが、血行促進作用がある生薬として日本薬局方にも収録されています。
ベニバナから作った生薬を身体のツボに塗る紅灸(べにきゅう)というお灸の方法もあるとか。
成分に紅花の記載があるものに、葛根湯、通導散、あと養命酒にも載っていたかと思います。
種子からは紅花油・サフラワーオイルが採れます。
リノール酸を多く含み、ポリフェノール成分も多様に含まれます。
血管年齢の改善効果によいとされるリノール酸やポリフェノールなどの研究も、日進月歩で進んでいます。種子ポリフェノールのひとつ、クマロイセロトニンはとくに有名で、血管年齢を若くするサプリメントとして日本で発売されています。
ベニバナをおうちで育てるなら
根がまっすぐに伸びるので、植え替えるときには根が傷つかないよう細心の注意を払います。さらりとした乾燥土を好むので、水のあげすぎも要注意。日当たりのよい水はけのよい土壌を維持します。
お料理やお茶などのハーブ活用で収穫をするなら7~8分咲き位のころに根元から切って、乾燥させます。棘があるので摘み取り時には園芸用手袋必須です。アブラムシがつきやすいので、虫たちとの格闘も覚悟の上で。
*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。
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