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ティトリー

お茶の木ではありません


Tea Treeを直訳するとお茶の木ですが、ハーブティにティトリーが見られないように、お茶の木として愛飲されてきた歴史はありません。

畏敬の念を思い出させてくれる香り、ティトリー

農場育ちのスコットランド人で、一介の水兵からイギリス海軍の航海長まで登り詰めた探検家、通称キャプテン・クックが初めてオーストラリア大陸に上陸し、お茶代わりに飲んでいたのでティトリーになったというのが有力な説です。

また先住民のアボリジニがティトリーを「ti」と呼んでいたので「ti tree」⇒ティトリーと名がついたという説もあります。とはいっても、先住民アボリジニの人々に、植物をラベリングして学名をつける発想はなかったと思いますので、ティトリーの木だけを指して「ti」と呼んでいたとは限りません。今でいうフトモモ科メラレウカ属を総称して、「ti」と呼んでいた、とする方が自然な感じがします。



学名は生命種のラベリング


学名がMelaleuca alternifolia(メラレウカ アルテルニフォリア)となっているものが、現在アロマテラピーで主流のティトリーの木です。

メラレウカ属は多数品種があり、日本でも園芸種のものを本州以西でよく見かけます。同じメラレウカ属にはカユプテやニアウリなどがあります。

学名で植物を区分するなんて、普段することはないと思いますが、ざっくり説明してみます。 現生人類はホモ・サピエンスという学名をもっています。

界・動物界

科・ヒト科

属・ヒト属

種・ホモ・サピエンス種

・・・うん。

ヒト科は1種しかいないのでわかりにくいですね、羊に置き換えてみましょう。

界・動物界

科・ウシ科

属・ヒツジ属

種・ヒツジ種

これをティトリーに置き換えると

界・植物界

科・フトモモ科

属・メラレウカ属

種・アルテルニフォリア種 となります。



気候風土は植物の父と母


オーストラリア原産のフトモモ科では他にユーカリの木が有名です。

ティトリーと同じ1,8-シネオールという成分を多く含んでおり、シネオールは別名ユーカリプトールとも呼ばれます。

食品添加物や香料、化粧品、口中清涼剤、せき止めなどに配合され、炎症や痛みを和らげる作用があるとされています。 皮膚や粘膜への刺激作用もあるのですが、ティトリー精油には全成分中5%前後しか含まれていないので、消毒、殺菌、抗菌にとても重宝します。

フトモモ科メラレウカ属は、オーストラリア原産の、この気候風土でしか育たない植生によって、独特の精油成分をもっているのです。



立身出世の実力者


アボリジニはティトリーの葉を傷薬として用いてきた長い歴史をもっています。

感染症の初期症状や予防にも良いとされ、1930年ころ世界各国で研究が盛んになりました。そして1949年、ティトリーは「英国薬局方(医薬品に関する品質規格書)」にも掲載されるようになりました。

もとは原産国アボリジニの人々以外、気にもとめられない木だったティトリーですが、刺激作用が少なく薬効が高かったことで、第二次世界大戦中、オーストラリア兵の救急箱の常備薬になり、今では抗感染力、抗真菌力、免疫賦活作用ほか、さまざまな皮膚症状にも研究がすすめられています。

一介の水兵から一躍世界の海をまたにかけて出世街道に躍り出た、若き冒険家キャプテン・クックと、なんか生い立ちが似ています。



「これまでの誰よりも遠くへ、それどころか、人間が行ける果てまで私は行きたい」


メラレウカの語源は古代ギリシャ語のメラス(黒)、レウコス(白)からきています。

オーストラリアはブッシュ・ファイヤーといって野草種の森が自然発火する時期があります。彼の地には何度か長期旅行で訪れたこともあり、ブッシュ・ファイヤーの跡地は数か所で見たことがあります。

焼け跡がくすぶる大地の色合いに、白と黒のコントラストが確かに印象的でした。

黒灰をかき分けて芽吹きだす、新芽の鮮やかさ、ペーパーバークと呼ばれる幹の白い木々が、こげ茶黒い背景の中にところどころ輝いて、ひときわ目を引いてきます。

残念ながらニューサウスウエルズ地方には行っていないので、ティトリー原生種を見ることはなかったのですが、過酷な環境下で生き抜く進化のプロセス、植物の智慧を、まざまざと感じられる瞬間でした。

出火するまでは、かたい殻で次世代の種を包みこみ、乾燥や日差し、動物や虫から身を守り、炎によって自らを焼き切って、種を大地に落とす。気候風土に合わせた工夫だろうと、現地の方は仰っていましたが、陰陽の極にふりきって、行けるとこまで行き切る、そして工夫するという姿勢は、人が行ける果てまで行ってみたい、ということばを遺したクック船長に、やっぱりどこか似ているなぁと感じていました。

基本的概念というか元種が同じ場合、形成されるロジックも同じ建てつけになって、お互いをひきつけあう。人と大陸にも、類は友を呼ぶ法則が、当てはまるのかもしれません。



ブッシュボーイ


前出したようにオーストラリアでは、低木が生い茂る野草の林をブッシュと呼びます。

パースからモンキーマイアまで約850㎞の道のりを、1度はバスで、2度目はレンタカーで走りましたが、道中目にするのはほぼほぼブッシュです。

同じような風景が延々と流れていき、動いているのか止まっているのか、わからなくなることがあります。焦点の合わない視線で風景を眺めていると、ときおりぴょこんと、誰かが立っているような錯覚に襲われます。ちょうど人の背丈くらいで、人の頭ほどの枝葉をもつ木を、ブッシュボーイと呼ぶんだと教えてもらいました。

ぼんやり見ているとブッシュボーイは次々に現れるのですが、他の木となにが違うんだろう、なぜその木だけ人の気配がするんだろう、よぉし、違いを確かめてやろう!と目に力を込めて凝視すると、ブッシュボーイの気配は全く感じられなくなります。

そしてまたブッシュボーイのことなんて忘れて、単調な景色に没入しぼんやりしていると、不意に「あれっ、いま人が立っていなかった?」と、ありえない光景を垣間見てしまうのです。



受容できない概念は、見ることができない


何かを見定めようとか、どうにかして謎を暴いてやろうとか、ありえないものには理由があるはずで、それが何なのか突き止めてやろうという目線に、ブッシュボーイは答えてくれません。今自分が見ているものがすべてではなく、自分が認知できるのは、実のところこの世界の、ほんの一握り、、いえ、もしかしたら小指の先ほどなのかもしれません。


江戸時代後期、ペリーの黒船が日本にやってきたとき、多くの人には黒船が見えなかったという逸話は有名です。船という概念はこういうもの、という自分視点を拡大できなかった人々は、その大きさや、鉄が浮かんでいること、蒸気で動いていることなど、想像もできなかったのだと思います。

眼球に映し出される映像は脳によって処理されますから、見る=脳が認識する、ということと、「在る」「存在する」ということは、別のことなんだろうと思います。



白と黒、光と影はふたつでひとつ


ティトリーは今や英国薬局方に掲載されるほどの精油界のエリート。日の当たる表街道をまっしぐら。研究開発によって、成分解析もどんどん進んでいます。

テルピネン-4-オール、α₋テルピネン、γ‐テルピネン、1,8₋シネオール、ビリジフロレン、ベータテルピネオール、L-テルピネオール、アリヘキサン酸エステルetc.etc...

一つの精油に含まれる成分は数十~数百といわれ、今後も人類は植物のエリキシルを、どんどん分類・定義してラベリングし、学名もコロコロ変えながら、活用していくのだろうと思います。

その一方で、分類・定義とは真逆のベクトルを働かせて、自分視点のこだわりから自由になろうとする、新しい潮流も、確かに動きはじめている気がしてなりません。

ティトリーの芳香は、いつでもブッシュボーイのいる森にいざなってくれるので、消毒用のマスクスプレーを吹きかけながら、畏怖の念や、畏敬の念を、忘れてはいけないよ、光と影はふたつでひとつだから、と、ささやきかけてくれるのです。


*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。


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