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ラベンダー

洗い清める


lavoー洗う という語源からラベンダーと呼ばれ、古代ローマ・ギリシャでは沐浴剤・入浴剤として親しまれてきました。


ローマ人は特にラベンダーの消毒作用を尊び、創傷を洗い清めるのに使用していたといいます。ローマの女たちはラベンダーオイルで頭皮をマッサージし、ノミがつかないようにしたり、花束を柱に吊り、家のまわりにまいて虫よけにしていました。


イギリスでは古くからせっけんの材料だったことから、洗たく女をラベンデレ(lavendre)と呼んでいました。

「洗う」「清める」「静観する」「蘇生する」この一連の洗たく儀式はまさにラベンダーの十八番

洗たくが象徴するもの


洗たく女といえば日本では久米の仙人のお話を思い出します。 コトバンクのデジタル大辞典の説明では、 「伝説上の仙人。大和国の竜門寺にこもり空中飛行の術を体得したが、吉野川で衣を洗う女の白い脛はぎに目がくらんで墜落。その女を妻として世俗に帰った。のち、遷都の際、木材の空中運搬に成功して天皇から田を賜り、久米寺を建立した。「今昔物語集」「徒然草」にみえる。」とあります。

空飛ぶ仙人をミツバチと例えるなら、ラベンダーが洗たく女というところでしょうか。 ミツバチをひきつけてやまない香りを放ち、引き寄せ、その後ラベンダーの花粉をミツバチの身にまとわせ、ミツバチはラベンダーのエッセンスとともに地上から空に飛び立ちます。 空を自由に舞い飛ぶミツバチと一蓮托生のラベンダーは、ミツバチに受粉してもらうことで次世代へ生命をつないでいきます。

空飛ぶ仙人も、ミツバチも、地上に降りることができるのは、降下場所を示してくれる洗たく女やラベンダーのおかげ、と考えます。 地上ならどこにでも降りられるわけじゃなかろうと。 そして最後はいっしょに天を舞い飛ぶことになるので、天地を自由に行き交う特別な力を、互いの力を合わせて発揮するのだろうと。


ラベンダーの香りがもたらす「洗い」「清め」「静観し」「蘇生する」という、まいど通過儀礼のようにもたらされるきもちの変容は「リリース」という言葉がしっくりきます。 心が洗われたように浄化され、解放され、鼻歌交じりに空も飛べるはず~と口ずさんでしまうような。

天から地上に、あるいは地上から天に、まるでヤコブの梯子(天使の梯子)のような渡りがついて、かろやかに空中散歩する気分、最上級の解放感。 ラベンダーの香りがもたらす最上級「リリース」は、地上のこまごまとしたやり取りから派生する重たい気配を一瞬で洗い清めて、浄化してくれるような頼もしさがあります。



七天女伝説


久米の仙人の男女逆バージョンのような七天女伝説では、天女はその身にまとう羽衣で天を舞うことができるわけですが、沐浴中にこの羽衣を奪われて天に戻れなくなり、地上の男性と婚姻します。 地方によって、あるいは国によって、いろいろな結末があるので結びの部分は割愛。 天地を結ぶ伝説、口承されてきた逸話の受取りかたはさまざまですが、地上に降りる場所を見つけて、往来できる仙人とか仙女がいる、というところが一番肝心な話のキモなのではないか、と考えています。

人間界に近づくことのできる天界種族がいて、夫婦になって地上生活を経験して、最後はともに空を飛び、天地往来が自在にできるようになる、と。 「地球生活にはそんな選択肢もあるんだよ」 かなり荒唐無稽でロマンチックな受け取り方をしていますが、個人的にはこれ一択ですw

天界から梯子を下すときも、地上から天に向かうときも、足場はとても大切です。 わたしの場合、 足場=川べりの洗たく女=沐浴中の天女=ラベンダーの咲く野原 という方程式が、あたまのなかでデキアガッテおり、 古今東西、ラベンダーの人気の高さを考えると、ラベンダーはハーブの中でも、より人に近いところまで降りてきた、植物界の羽衣天女なのかしら、と思っています。



洗たくにまつわるお話もうひとつ


ロシアの民話で有名な魔女ババヤーガが、ワシリーサ(またはヴァサリッサ)に洗たくをさせるくだりにも、洗たくが一つの儀式、イニシエーションであることが描かれています。


着物はペルソナで、周囲の人が自分を見るときの最初の姿です。

それは人に知ってもらいたい面だけを見せる、ひとつのカモフラージュともいえますが、同時に地位や権威、評判を表にさらし、自分が何者であるかを外に向かって示す魔道具にもなるというわけです。


ババヤーガの着物をワシリーサが洗うことで、そのペルソナがどのように縫い合わされ、どんな模様をしているのか、直接自分の眼でじっくりと静観し、大魔女の力と権威の仕組みを自分のなかに取り込んでいくことができます。


水に浸し清めることで、着ているうちに弱まってしまった布の織目や模様をもう一度浮かび上がらせることは、大魔女の観念や価値観を再生して、明るみに出すことでもあります。「洗う」「清める」「静観する」「蘇生する」、この一連の洗たく儀式はまさにラベンダーの十八番です。



秀逸な香料として


香水のメッカとして有名なフランス・グラースでは、皮手袋の香りづけにラベンダーオイルを使用していました。手袋職人が当時の流行病(ペスト)に罹らなかったので、ラベンダーを持ち歩くことを皆に進めた逸話が残っています。


現代アロマテラピーの成立も、化学者が実験中に指にやけどを負い、ラベンダー精油を塗ったところ驚くほど治りが早かったため、精油の薬理作用について研究を始めたことがきっかけとなっています。 とはいっても、ラベンダーのもたらす薬理作用は古くから認められていましたし、ラベンダーの特徴に言及し、その素晴らしさを説いてきた著名人はシェイクスピアをはじめ、ルドルフ・シュタイナー、ヒルデガルド・フォン・ビンゲンなど枚挙にいとまがありません。



釣りは詩と、どこか似ている


17世紀に活躍したイギリスの著作家アイザック・ウォルトン曰く「私はラベンダーの香りがするシーツのある家にずっといたいと思う」


釣りの本で有名な作家さんですが、ラベンダーの香りがもたらす静謐さ、心休まる静寂は、釣りに通じるものがあるのかなと思います。アイザックさんは釣りと詩を引き合いに出していましたが、どちらも静寂で孤独な時間を創出する達人でなければ楽しむことはできないものですから、ラベンダーの香りにいつも包まれていたいというのは、寡黙な釣り人にぴったりという気がします。

寡黙な釣り人にぴったりの香り

ラベンダーの花束を


エリザベス朝の抒情詩で「真実の恋人のために存在する」と歌われるラベンダー。イギリスでは恋人たちがラベンダーの花を贈りあう風習もあるとか。

ほのかに香るラベンダーを身に纏うなら、きっと花とミツバチのように、真実の恋人をひきつける(でしょう)



*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。


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