太古、神々より三代以前に生じたる薬草
紀元前1,000年ころのインドから口頭伝承で受け継がれてきた賛歌、リグ・ヴェーダに「薬草の歌」があります。薬草のことを母、母たち、女神たちと呼んでいるのが印象的です。
レモングラスはイネ科のハーブでインド原産。
レモンより鮮烈なレモン様の香りをもっています。ハーブティやトムヤムクンの香りでおなじみの方も多いと思います。
レモングラスにはシトラールという成分が多く入っており、消毒、抗菌、虫よけにと重宝します。
リグ・ヴェーダ讃歌集のなかに植物の王たる王という感じで、神の飲みものソーマという植物が頻繁に出てくるのですが、これがたいへんに神格化された植物で、ソーマ(神酒)の賛歌がいくつも残されています。さらにソーマを圧搾する石の賛歌まであって「赤らめるソーマ草の茎を食らいつつ、これらよく噛む石は咆哮し」というくだりを読んだときは、インドでチューマナ・プールー(赤い茎)と呼ばれるレモングラスのことか?と勝手に妄想し、心臓が早鐘打ったことを覚えています。
ちなみにwikiには「(ソーマは)なんらかの植物の液汁と考えられるが、植物学上の同定は困難である」とあります。
人類の歴史はイネ科の歴史
日本では別名レモンガヤ。
レモンの香りがするガヤ、つまり茅葺屋根になるカヤの仲間です。
いまは茅葺屋根のおうちなんてほとんど見かけませんが、白川郷の合掌造りといえば、イメージわくでしょうか。ススキやヨシで作られている屋根です。
イネ科の植物は食べ物として、あるいは生活の道具として、人が定住し都市をつくるのに大きく貢献してきた背景を持っています。レモングラスも今様アロマテラピーだけではなく、料理に使われたり、薫香として焚かれたり、人とのつながりは古くからあったのだろうと思います。
インド伝統医学では発熱をともなう感染症にレモングラスが使用されてきました。数千年にわたりインドの人々に愛されてきたハーブの一つであることは間違いありません。
タイの香り
以前タイ国を旅した時にはあちこちでレモングラスを見かけました。
新鮮でみずみずしい束が店頭に山盛りで無造作に置かれています。
小さな八百屋?が10数件ごとに出現するので、周辺一帯はレモングラスの香りに満ち満ちています。
このときレモングラスの香り空間がいかに活気があり、若々しさと生気に溢れているか肌で実感しました。
日本にも桜満開の季節があり、富良野のラベンダーも素晴らしいし、ひまわり畑とかコスモス街道とか藤棚とか、植物の香りがその場を仕切って、独特の雰囲気を作り出す体験はしていましたが、南国のレモングラスが創出する、活気あふれる香り空間は、あらためてハーブの驚異的な力に思いを馳せるのに充分効果的でした。
香りという感覚を通じて、理屈抜きにダイレクトに私たちに届き、郷愁のような不思議な感覚を呼覚ます。名前もつけられないし定義もできないけれど「知っている、この感覚を知っている」という思いだけが強まって、ちょっとしたトランス状態というのでしょうか。
レモングラスはオープンで開放的な香り空間を作り出してくれるので、頭であれこれ考える間もなくハッと気づかせてくれるのかもしれません。
ハーブに親しむなら、机上の勉強以上に、文化的側面や、人との関係性にもっと焦点を当てていこうという思いを新たにしました。
古代エジプト時代にも
芳香療法の確立は、古代エジプト時代にすでに完成されていたという説があります。当時の人々の暮らしにハーブは欠かせないものでした。代表的なのがキーフィ(kyphi)と呼ばれるインセンスで、焚香するだけでなく香水として、薬としても使われていたものです。熟練調香師が残したレシピだけではなく、各家庭独自の、さまざまなレシピがあったらしく、レモングラスも薫香料としてその名が挙げられています。
*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。
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