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太陽神の花、太陽になった穀物


太陽神の象徴ヒマワリ


一年生草本のキク科ヒマワリは、インカ帝国の太陽神象徴とされていたことで有名です。

学名 Helianthus annuus、ヘリアサンス(ヘリアントス)はギリシャ神話の太陽神ヘリオスに由来し、ギリシャ語のhelios(太陽)とanthos(花)から名付けられました。


インカ帝国については、「南アメリカのペルー、ボリビア(チチカカ湖周辺)、エクアドルを中心にケチュア族が築いた帝国。文字を持たない社会そして文明であった。

首都はクスコ。世界遺産である15世紀のインカ帝国の遺跡「マチュ・ピチュ」から、さらに千メートル程高い3,400mの標高にクスコがある(ウィキペディア)」とあります。


ケチュア族は12世紀頃にクスコに移住、インカ族として成立したといわれていますが、アンデス文明の最後の系統としてインカ文明と呼ばれたりもします。

空中楼閣といわれるマチュ・ピチュ遺跡のほかに、アンデス文明には有名なナスカの地上絵もあり、日本、エジプトと同じく太陽神を脊柱にしている点で、なんとなく親和性を持ってしまいます。



スタートダッシュからいのち果てるまで全力疾走


4月頃に種まきされ、あっという間にぐんぐん育ち、7月にはもう花が咲き始め、花が終わると、これまた驚くほどどっさりと栄養満点の種をつける。

スタートダッシュから全力疾走で走り続けて、種をどっさり残して死んでいくとは…、みてくれ同様大胆不敵というか、天真爛漫というか。ぐんと育って、ばんと咲いて、どんと種を残す生き様(咲き様?)には圧倒されてしまいます。

直径30センチほどの(大きなものでは40センチにも)花を咲かせ、背丈も平均3メートル、大きなものでは5メートル越えもあるそうで、いったいヒマワリってどういうシステム?と、ヒマワリを見かけるたび「すごいなぁ」とひとりごちてしまいます。



観賞用から作物へ


インカ帝国は1533年に、スペイン人(コンキスタドール)による征服、植民地化により滅亡しますが、神事においてヒマワリはなくてはならない儀式用の植物でした。また神殿などの建築物にも模様が施され、太陽の花として尊ばれていたそうです。

16世紀にヨーロッパに伝わり、はじめは観賞用として広がりますが、種から食用油を採油するための作物として、畑で栽培されるようになってゆきます。

ゴッホの描いたヒマワリは観賞用ではなく作物として栽培されていたものだとか。

1970年代には大豆油に次いで多く生産されるようになり1980年代には世界の商業ライン定番作物になりました。

油糧は25~32%あり、リノール酸やビタミンEを多く含み、ミネラル、葉酸、鉄分、食物繊維も含まれていることから、アメリカでは健康食品として、ヒマワリの種はスタンダードなおやつになっています。アメリカの大リーガーがくちゃくちゃと嚙んでペっペッと吐きだしているのはヒマワリの種で、これもよく知られるお話となりました。



緑肥にもなるヒマワリの得意技


農作物が良く育つための肥料について、堆肥(微生物による分解が進み腐敗した有機物)が必要なのはいまや周知のことです。

植物が育つには窒素、リン酸、カリウムが必須、葉を大きくするのに窒素、花や実を結実するのにリン酸、根を大きくするのはカリウム。

その肥料ですが、なかには緑肥といって腐敗させず、というより青々と茂っているそのままの植物を畑に漉き込む、緑肥という方法があると知ったのは、ひまわり畑を緑肥に活用している農家さんから聞いた話です。

開花して花が見ごろの8月くらいに漉き込みするそうで、ヒマワリは成長が速いので、葉の広がりで土が守られつつ雑草の下生えを抑制でき、根がまっすぐ深く伸びるので土壌が改善され、特殊な菌のおかげでリン酸の吸収を促し、野菜の実付が良くなると聞きました。

さらに短い間だけど、花が咲き誇る時期は景観がよくて癒されると仰ってました。


またトウモロコシも早期成長して、有機物をよく生成するので、土壌改善する緑肥に向いているんだよと教えてもらいました。

自分の植生(環境に順応して獲得した得意技や進化プロセスの知恵)が、ほかの植物の育成を助けるなんて、すごいことだなーと思います。

太陽光を上手に受け取る技をチョッパヤで身につけて、土の状態をよくしていくなんて、正統派ヒーローそのものやな、と。

ヒマワリもトウモロコシも、ワセの成長っぷりを生かしていのちをつないでいく。

急いで成長する分、ちゃんと後続につないでいく。

そんなサイクルもまた、ひとつの生き様、咲き様として、カッコええなぁと思います。

緑肥になる植物は、燕麦、レンゲ、クローバー、マリーゴールド、ライムギなどほかにもいろいろあるそうです。




トウモロコシの神様のおはなし


マヤ人キチェ族の創世神話、ポポル・ヴフは口頭伝承で受け継がれてきたもので、文字に書き起こされたのは1550年頃のことだそうです。

インカ文明と違ってマヤ文明には高度な文字がありましたが、マヤ文字で記されているものはコンキスタドールによってすべて焚書され現存していません。18世紀に原文をスペイン語で写したものが残されているだけです。


ポポル・ヴフを要約すると双子の英雄神(トウモロコシの神)が、巨人や冥府の住人にやっつけられたり、やり返したりしながら、最後は太陽と月になるお話です。

その後トウモロコシから人間を作ることに成功したお話なども収載されています。

マヤ人にとってはトウモロコシが神様であり、人類の祖なんですね。

私見ですがトウモロコシ畑は小さな頃から目にする機会が多々あり、はじめて見たときは、まるで人間みたいだと感じたのを覚えています。毎年夏になるとトウモロコシ畑の脇道を歩きながら、話しかけられたらどうしよう(?!)とドキドキしていました。


トウモロコシも一年生草本で、ヒマワリと同じくスタートダッシュから全力疾走でぐんぐん成長し、大きな実をつけて枯れていきます。胚芽から搾油されるコーン油の組成はヒマワリ油と大変近しく、リノール酸、ビタミンA、ビタミンEが豊富です。




オイル(脂質)は効率よくエネルギーを生み出すことができ、炭水化物エネルギーと比較するとおよそ2倍以上といわれています。つまり全力疾走でぐんぐん成長する植物にとっては必要不可欠といえるものです。

トウモロコシもヒマワリも、芽を出してから短期間で大きく成長し、種は大きいです。大きいといっても人の手のひらにすっぽり収まる程度、そんな一粒の種のなかに、親植物と同じように大きくなる情報がすべて組み込まれているとは(脱帽)。

種にとってのオイル(脂質)は、次世代にいのちをつなぐための貴重な栄養でもあり、次の芽吹きの時期までじっと待って、その時が来たら親植物と同じようにスタートダッシュから全速力で大きくなる命題をもっています。

莫大なエネルギーを生み出すオイル(脂質)を蓄えることは、それだけ親植物の負担も大きいといえますが、ぐんと育って、ばんと結実して、どんと種を残せるのは、太陽と仲良しだからこそできる得意技。まずは光を受容できる力、そして循環させる力がなければ難しいわけです。ヒマワリとトウモロコシの種に蓄えられる有用成分には、目いっぱいの太陽光を受けとり循環させる、力強いエネルギーも、備わっているんですね。


太陽神の象徴とされたヒマワリ、太陽になったトウモロコシの神様。

アステカ、インカ、マヤといえば近代に最も近い文明のなかで、生命エネルギーや意識体を「ないものとせず」、「それを含めて人類は成立している」と考えていた民族だと思います。彼らにとって太陽に紐づいていた植物への畏敬の念はいかほどだったのか、現代脳で想像するのは至難の業ですが、ヒマワリの種をほおばりながら、そしてトウモロコシをかじりながら、太陽エネルギーをおすそ分けしてもらっているんだなーと考えると、食卓に一段と明るい光が差し込むような気分になります。



*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。



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